生かされてこそ文化財

2020年01月01日

令和の年、初めての新春を心新たな思いで年を迎えることができました。皆様ご機嫌よく新春を迎えられたことと賀しあげます。

ご即位の行事も滞りなく国民の笑みに包まれ無魔成満し、何よりのことと存じ上げます。

陛下のお言葉を一つ一つ伺う時に、ご自身のお言葉で、上皇様のお心を引き継ぎ国の行く末を深く深く思われていることが感じ取ることができます。中でも国民に寄り添い、そして国民の声を聞くというお言葉を聞くたびに、平成二十九年六月に上皇様の退位を実現する皇室典範特別法が成立した後、陛下は御代替わりのご準備の一環として醍醐寺を訪問され、後奈良天皇ご宸筆の般若心経の写経を中心に歴代天皇のご宸筆をご覧になられました。中でも後奈良天皇の奥書は何度もなんどもお読み返しになっておられました。その一文は、

今茲に天下の大疫にて、万民多く死亡におよぶ。朕、民の

父母(ぶも)として、徳は覆(くつがえ)すこと能わず。甚だ自ら痛む。

ひそかに般若心経一巻を金字に写し、義堯僧正をしてこれを供養せしむ。

こい幾(ねが)わくは疾病の妙薬たらんことを。

時に天文九年六月十七日

と記されています。ここに後奈良天皇の衷心からの疫病平癒の深い想いをうけとめられました。陛下はこの後、静かに私に話されたお言葉「過去の天皇方が人々に寄り添い、そしてその声に耳を傾けられた。その業績を明らかにしようとの思い、さらにそれが両陛下(上皇両陛下)の御心として伝えられていること、これを大切に深く思う。」

私はこのお言葉を思い浮かべながら、後奈良天皇のご誓願が生き生きと陛下によって語られていることに対し、伝承物の保存、管理の大切さを強く感じました。そしてご即位後お目にかかった陛下にこのことをお話することができました。

醍醐寺は、国宝に指定された文化財をはじめ永世に伝えていく姿勢として、「生かされてこそ文化財」という言葉を大切に尚一層の努力をすべきであると強く思う次第です。

そして「生かされてこそ文化財」の心は、

文化財は、人類の叡智の結晶である。

文化財は、時代を超えて、歴史文明を今日に伝える存在である。

文化財は、人と人との心を通じ合わせる架け橋である。

是非この事をご理解いただき、醍醐寺は京都醍醐を発信地として全世界に対して文化財伝承の大切さを伝えていく所存です。

 

真言宗醍醐派管長

大僧正 仲田順和